「成年後見制度」という制度をご存じでしょうか?
判断力が低下した高齢者などの生活を支えるための制度として2000年4月に発足しました。すでに発足から20年以上経過しましたが、まだまだ認知度は低いです。
後見人が必要な高齢者がいないからといって関係ないわけではありません。親が突然認知症になり判断力を失うこともあるかもしれません。制度を事前に知っていることで、家族や親族・地域の身近な人の暮らしを守ることができるかもしれません。
「成年後見制度」はすべての人が知っているべき制度なのです。
目次
成年後見制度は「法定後見制度」と「任意後見制度」の2つの制度から成り立っています。
すでに認知症などで、判断力が低下した人のための制度
今、元気な人のための制度です。
法定後見制度には「後見」「保佐」「補助」の三つの区分があり、ご本人の判断力低下の程度により、それぞれが適用されます。それぞれに対して「後見人」「保佐人」「補助人」が選任され、ご本人の生活を支えます。
手続きのポイント
利用のメリット
法定後見人は誰でもなることが可能です。ただし一定の条件(欠格条件)にあたる方を除きます。また、申し立てる人が「候補者」を希望することはできますが、家庭裁判所が法定後見人を決めるため、「候補者」が必ず選任されるとは限りません。
成年後見人等は、本人のために必要な支援のレベルに応じて、家庭裁判所が選任することになります。本人の親族以外にも、後見業務を行う司法書士や社会福祉士などが選ばれる場合もあります。成年後見人などを複数選ぶことも可能です。また、財産の多寡等によっては、成年後見人等を監督する成年後見監督人が選任されます。
成年後見人になれない人
注)後見開始等の審判を申し立てる際、たとえ後見人として選任してもらいたい人がいる場合でも、家庭裁判所が希望どおりに選任するとは限りません。希望とは異なる人が成年後見人等に選任された場合、そのことを理由に後見開始等の審判に対して不服申立てをすることはできません。また、家族としては遺産分割協議などで一時的に後見人を選任してもらったつもりだったとしても、それらのイベントが終わったからといって後見人をやめさせるよう、家庭裁判所に申し立てることもできません。
制度発足時は後見人にご本人の子どもや兄弟などの親族が選ばれることがほとんどでしたが、今では家族関係の希薄化やひとり暮らしの高齢者の増加によって第三者の個人や法人の数が上回っています。
出典:「成年後見制度の現状」(平成 28年/内閣府 成年後見制度利用促進委員会事務局)
※成年後見制度に関する相談等は各自治体の「成年後見支援センター」や「地域包括支援センター」等へお問合せください。
後見人は、ご本人の暮らしを支えるために預貯金や自宅等不動産を管理したり、あるいは生活から生じる様々な契約処理などを行う財産管理の仕事と、本人の健康や生活の状態を見守り、医療や介護など必要なサービスの選択や契約の代行を行う身上保護の仕事と、大きく2つの分野を担うことになります。
また、上記の2つの分野の仕事を進めるために、大きく「同意権」「取消権」「代理権」の3つの権限が与えられます。具体的には、後見人は代理権を行使して、不動産の売買や相続などにまつわる財産管理や商品の購入、施設の入所に関わる手続などを行います。
具体例から、後見人の仕事内容を見てみましょう。
病気で長期入院を余儀なくされたSさん(75)。しかし、生活に困窮しているため、治療費が払えません。そこでSさんの治療費が滞っており、体が不自由で日ごろの生活も困っていることを知った病院側が連絡をしたことで、Sさんの判断力低下が認められ、後見人がつくことになりました。
後見人は早速Sさんに面会。いろいろ調査を進めると、労災の障害年金を受給できていないことが判明します。以前から体が不自由だったSさんは、家の掃除もまともにできない状況。
労働基準監督署から送られてくる「現況届」が部屋の隅に追いやられ、1年以上通知を返送していませんでした。
Sさんが年金を受け取れるよう、後見人は行政機関に出かけたり、書類を記入するなどの手続を行いました。結果、約100万円ほどの年金の支給が再開されました。
病気の進行により病院生活を余儀なくされたため、後見人はSさんの自宅の退去手続きや荷物の撤去なども行いました。
Point
判断力が低下している方は行政から届く書類がなんの書類なのかわからないこともあります。後見人がつくことで書類の見落としを防ぎ本来受けられるはずのサービスを正しく受け取ることができます。
「お金がなくて困っている」と地域包括支援センターに相談にきたDさん(70)。お話を聞いてみると「親切な人がやって来て、古い家を直してもらった」とのこと。どうやら判断力が低下し、消費者被害に遭っていることがわかりました。その数、10数件、2000万円にものぼるリフォーム詐欺でした。
急ぎ消費者センターに連絡し、手続を行う中、法的な対応を行うため、成年後見制度を利用することになりました。Dさんには親族がいないため、市長申し立てを行い、保佐人が付きました。保佐人は、まず全ての契約の解約や支払い金の返還を司法書士に依頼し、ご本人の財産を確保することができました。
さらに調べているうちに両親の残した財産の相続手続も未完了だったことが判明。手続を行い、これからの生活を維持する体制を整えました。やがて、ひとり暮らしが不安になったDさんはショートステイの利用を始めます。保佐人は定期的に面談を行い、Dさんは心身ともに安定されました。今はグループホームに移られ、親しい人間関係が築けています。
Point
認知症などで判断力を失ってしまうとコミュニケーションが取れなくなるためこうした詐欺に遭いやすくなります。こうしたケースでは法律の専門家が保佐人としてついたほうが財産の確保がスムーズかもしれません。保佐人を中心として、地域包括支援センターなど様々な機関と連携して問題を解決する必要があります。
後見人の権限には大きく「同意権」「取消権」「代理権」の3つがあります。後見人は代理権を行使して、不動産の売買や相続などにまつわる財産管理や商品の購入、施設の入所に関わる手続などをします。
「同意権・取消権」とは
「代理権」とは
後見 | 保佐 | 補助 | |
---|---|---|---|
本人の状態 | 判断能力がほとんどなく日常的な買い物もできず、常に介護が必要 | 判断能力がかなり低下し、日常の買い物はできるが、財産の管理は困難 | 判断能力が低下し、複雑な契約などにはサポートが必要 |
与えられる権限 | 全面的な代理権、全面的な取消権、日常生活の行為は除く | 限定的な代理権、重要な財産行為についての同意権、取消権、権限内容の追加が可能 | さらに限定的な代理権、限定された特定の同意権、取消権、権限内容の選択が可能 |
本人の同意の必要性 | すべて不要 | 代理権には必要、同意権/取消権は不要、追加した権限には必要 | 代理権、同意権、取消権のすべてに必要 |
ご本人の生活を見守り、生活に必要なサービスの選択や契約を行うことも後見人の仕事になります。ご本人の意思を尊重し、心身の状態および生活の状況に配慮しながら、生活のサポートを行います。
今回は、法定後見制度についてご説明しました。この制度の目的は、ご本人が自分のことは自分で決めるという気持ちを尊重し、残っている能力を活かしながら、ご本人では難しい部分だけを周りでサポートし日常生活を送れるようにするところにあります。
とはいえ、認知症になってしまってからでは、なかなかご自身の納得のいくような形での自己決定を行うことは難しいのも事実です。
備えあれば憂いなし、といいますが、次回は万一、ご自身が認知症になった場合にでも万全にしておくための方策、任意後見制度についてお伝えしたいと思います。
川原田司法書士
1976年生、京大法卒。東京・大阪を中心に、シニア向けに成年後見や家族信託、遺言などの法務を軸とした財産管理業務専門チームを結成。現在、延べ1000名の方々との財産管理顧問として業務を展開。
日本経済新聞電子版にて「司法書士が見た相続トラブル百科」を長期連載他、TV(情報ライブ「ミヤネ屋」、グッドモーニングなど)出演。金融機関を中心に相続セミナー講師を多数歴任し、著書に『司法書士は見た実録相続トラブル』(日経出版)がある。
司法書士法人おおさか法務事務所(http://olao.jp)
橋本珠美
2001年4月、株式会社ユメコムを起ち上げ、介護・福祉の法人マーケットを中心に、誰もが高齢社会を安心して過ごすためのコンサルティングを始める。
また「高齢者と高齢者を抱える現役世代」のための相談窓口「シニアサポートデスク」「ワーク&ケアヘルプライン」を運営し、高齢者やそのご家族の幅広いお悩み(介護・相続・すまいなど)にお応えしている。
相談窓口の事例と自身の経験(ダブルケア)を取り入れたセミナー活動は好評を得ている。
株式会社ユメコム(https://www.yumecom.com)